げビリビリッと胴慄いをして、がらくたものが散らばっている街上に重くドシンと倒れた。
「くたばりやがった!」
山崎は歩いた。このピストル一発で、陳に渡す三百元が、自分の懐へころげこんだのだ。それを思うとぞくぞくした。
彼は、邦人の家が掠奪された有様や、両耳を斬られた女の屍体、腹に石を詰められた男の屍体、それを、兵士達や、避難民や、内地の大衆に知らしてやる必要があった。そのことを考えた。世界中に知らしてやる必要がある!……
司令部の前に来た。
「止まれッ!」
歩哨の声は彼の耳に入らなかった。
「止まれッ!」
やはり彼は、何事か考えながら歩いていた。
そこは、北軍退却の以前から厳重な服装検査と警戒のあるところだった。孫伝芳の自動車もそこで停止を命じられたりした。
自動車の主は引きずりおろされた。ポケットはさぐられた。
「俺は、孫伝芳だぞ!」
金モールの額のはげ上ったおやじは、じだんだを踏んで口惜しがった。
「俺は、孫伝芳だぞ! 無礼者め!」
けれども、歩哨には、直魯連合軍司令もヘッタクレもあったもんじゃなかった。すべてが同じだった。任務をはたすだけだ。
「チェッ! 孫伝芳ッ
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