兵士達の向う見ずの勇気、憤激などは、こういう報道から不可避的に作り出されて行くのだった。
 山崎は、これを理解していた。そして、利用した。
 三日目に、彼は、津浦線ガードの東北の畑地で、新しく盛られた土饅頭の下から、埋められた惨殺体を発見した。
 新らしい鍬のあとが明らかな土饅頭は、何となくあやしげだった。
 掘りかえした。
 一人の女と、二人の男がなまなましい、酸ッぱい匂いを放ちながら横たわっていた。更に、そこから僅かばかり隔った亜細亜タンクの附近にも六名の死体がかくされてあった。左右の耳が斬りそがれ、ある者の腹は石をつめこまれてふくらんでかたくなっていた。
 十王殿も、館駅街も、多くの家が掠奪と破壊のために、ごたごたにひっくりかえされて見るかげもなくなっていた。
 支那服の山崎は、そこを見てまわった。――これを知らしてやらなければならない。と、彼は考えた。兵士たちにも、邦人にも、内地へも。
 職業的な感覚から、彼は、これを知らせば何が起るか、それはよくわかった。十名内外を二百八十名と云いふらす偉大な効果を、この男はよく知っていた。戦争は、国民を興奮と熱狂の状態に誘導しなければやり得
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