さつりく》と掠奪はつきものである。
 戦争が起れば、必ず、掠奪が行われ、徴発が行われ、殺人が行われる。
 これが、利害に応じて、誇大に報道される。又、利害に応じて、反対に黙殺され終る。
 この日の、虐殺された邦人は、二日後に土の中から発見した九人をも合わして十四名だった。
 内地のブル新聞には、それが、二百八十名と報道された。
 新聞は、婦人を裸体にして云うに忍びざる惨酷な嬲《なぶ》り方の後、虐殺した、と書いた。娘は局所に棒を突きこまれ、腕の骨を棍棒で叩き折られ、両眼をくりぬかれた。と書いた。
 特派員の眼前には頭蓋骨を叩き割られた死体の脳味噌が塵の路上にこぼれていると知らせた。
 掠奪についても、同様な報道がせられた。
 貴重品や被服は勿論、床板、畳、天井板をひっぺがし、小学生の教科書をまでかっぱらった。そして、金鎖、金時計、大洋《タヤン》二百四十元、紙幣三百八十元を強奪された。その遭難者の談が載せられた。
 それを読んで、南軍を憎まない人間は、どうかしている。暴兵を全滅せしめるのが当然だと憤らない人間はどうかしている。
 それほど誇大な報道の力は強かった。
 国民の輿論、敵がい心、
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