き[#「ねまき」に傍点]をゴザの代りにひろげた。
すゞは、そのおばさんの顔を知らなかった。しかし、その上で血で、ねまきを汚さないように気をつけながら俊に脚をのばさした。
二人は、並んで、おばさんの、ねまきの上に寝た。
「あゝ、恐ろしいこった。今日中にどれだけの人間が殺したり、殺されたりしたか、数が知れまい。」
と、おばさんは吐息をして、なむあみだぶを唱えた。
「……すっかり財産を失った人がどれだけあるか知れまい……百ではきくまい。家を壊されてしまった人だって、どれだけあるか!……あ、あ、怖いこった! 怖いこった!」
なむあみだぶ。
なむあみだぶ。
夜はふけた。俊は、歯を喰いしばって疼痛をこらえようとしたが、唸きが、ひとりでに、その歯の間から漏れた。
大砲は、なお遠くで、静けさを破って轟いていた。人の鼾声《いびきごえ》や、犬の吠えるのがきこえる。電燈だけが、ます/\明るくなっていた。憲兵の靴が、廊下にコットン/\とひびいた。
翌日、お昼すぎ、二人は、脚を怪我した父と母がいる病院へつれて行かれた。
そこで、俊は手あてを受けた。
二八
軍隊と戦争には、殺戮《
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