走ってしまった。前にのろ/\と行く者は、押しのけて走った。一郎はどうなったか忘れてしまっていた。
KS倶楽部へは、あとから、あとからといくらでも避難者が押しよせて来た。いつのまにこういう大動乱になってしまったか? 彼女達は不思議に思った。彼女の家が市街戦のきッかけとなった。それは知らなかった。悪いのは南兵だ。そう思わせられた。多くの人々も、勿論、そう思っていた。いつでも事件のきッかけは中津のような反動のゴロツキが必要に応じて作っているのだ。そういうことは勿論知らなかった。
遠いところや、或は近くで、大砲や銃声が断れ/″\に、又、つゞいて響いていた。大砲が発射されるごとに、硝子窓は、ビリビリッと震動した。頭をめちゃ/\に斬られた人が這入ってきた。何時間かが過ぎた。
男の者が外に出て米をといだ。
飯が出来ると、その男たちは、自分の知っている者や、女郎ばかりに飯を配って、向うの方の人々は、腹いっぱいに食べていた。が、知り合いでない者には一杯もあたらなかった。すゞと俊とは自分達がのけ者にされてしまったような淋しい感情に満された。兄がいれば、飯を食べさして貰えるだろう。ふとすゞは、そんな
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