捕虜となっている人間がどれだけあるかしれないのだ! 阿片のために、どれだけの人間が※[#「やまいだれ+隠」、第4水準2−81−77]者《いんじゃ》となり滅されつゝあるか知れないのだ。……

     二六

 額の禿げ上った、見すぼらしい跛が、炎熱と塵埃にむれている石畳の小路へ這入った。
 ヒョク/\して、外見は、えげつない歩き方をしていた。が、身軽るくさッさと歩いた。
 暫らくすると、それが、這入った石畳の小路から引っかえしてきた。以前より、もっと身軽るく、片チンバの脚で飛ぶようだった。やがて、洋車を呼ぶと、一足とびにとび乗った。
「早くやれッ!」
 洋車は、塵埃と炎熱の巷へ吸いこまれて行った。
 小路の奥の、石塀の中の一ツの家では、すゞが、安物の手ミシンにむかって、ドレスを縫ったり、ほぐしたり、また縫ったりやっていた。真直に、平行に行かない縫目が彼女に気に入らないのだ。
 天むきの鼻の一郎は、顔じゅうが眼ばかりのように見える。眼が大きく光っていた。去《い》んだトシ子そっくりだ。彼は、俊のそばに這いよった。俊がよんでいるビラを小さい手で荒ッぽく引ったくろうとした。
 ビラは、蒋介石の
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