は与えられた。
 竹三郎は、如何にも、うまそうに、むさぼり吸った。たてつゞけに、一と匣分の麻酔薬を吸ってしまった。
「苦しゅうて、苦しゅうて、やりきれんからとうとうこんな芸当をやっちまった。洗面器で足の小指をぶち切った。――そうでもしなきゃ、留置場から出られねえんだ。俺れがどんなにのた打ちまわっとったって、領事館の奴はへへら笑っていやがるんだ。」
 母と、詰襟の支那人がやってきた。薬がまわった竹三郎は、足の疼痛を忘れた。自分を取りかこんだ者達にはしゃぎ、唇には、足らん男のような微笑さえ浮んだ。
「全くヘロインの虜《とりこ》になっちまったんだ!」と幹太郎は思った。「自分の指を切り落してもヘロインが吸いたいんだ! 指とヘロインの交換! 支那へさえ来ていなければ、そんなことになりゃしなかったんだ! あの村から追い出されさえしなければ、こんなことになりはしなかったんだ!」
 彼は恐ろしい気がした。
「もうないか。……もっとねえか、吸わせろい! 吸わせろい!」
 親爺は、また、子供のようにせびりだした。
 支那には、この竹三郎のように、外国人の手によって持ちこまれる阿片や、モルヒネや、ヘロインの
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