襟の支那人と二人でついてきた。
 彼は、中津のあぶない陰謀に、うすうす感づいていた。母と喧嘩をしながら、それでも蜿曲《えんきょく》に、家を留守にしないように繰りかえしていた。母とすれちがいに中津が家へやって行った。――それは、彼には、中津が、卑猥な会心の笑みをもらしている有りさまさえ想像せられた。そして、不安はますます強くされるのだった。
 竹三郎は、領事館の留置場で、ヘロインがきれてしまった肉体を、我慢が出来るだけ我慢をした。しかし、どうしても、二十九日の拘留期間を我慢し通すことは出来なかった。彼は、監視の若い巡査の軽蔑と、冷笑をあびながら、唸き死ぬばかりに、ばたばたと肉体的にもだえ苦るしんだ。
 昔、村会議員になった。ほかの収賄をやった連中を摘発してやろうとした。そんな時代の颯爽とした面かげは、全く失われてしまった。外科病室の、白いベッドで、看護婦達に押えつけられながら、あばれている黄色ッぽい、死にかけた黄疸患者のような、親爺を見つけて、幹太郎は、まず、それを思った。誰れが、こういうことにしてしまったか! 俺達は、誰からも保護をうけてはいないのだ! 日本人の特典は、貧乏な者には、通
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