まま、仕事に打ちこんでいた。工場へはよく暗号の電話がかかって来た。
三号十八匹、今日、ツブシに到着。と言ってくれば、四千円は動かなかった。豚の鼻十、五目飯で焚き込み。と云えば、十挺の鉄砲と、それに相当する弾薬、所属品が売れたことだ。
山崎は、こんな、内川の秘密を知っていた。
いろいろな情報や、日々の変遷、事件が手に取るように速急に這入る機関があるだけでも、工場を兼ねていることは、内川に有利だった。支那の巡警や、鉄道員や、税関吏は、金持をせびって余得をせしめるのが昔からの習慣となっている。内川はそれをうまく利用していた。
「工場へ来とったって、どっちが本職だか分らねえんだからな。あんまり一人でうまい汁ばかり吸っていると、今に腹が痛みだすんだから。」
「それを云うなよ、君、それ、それを云うなよ。」
内川は、なぞをかけようとする山崎を見抜いて、おどけたように頸をすくめ、手を振って、茶化しようと努めた。
「こいつはまるで、軽業の綱渡りだからね。まかりまちがえば、落っこちて死んじまうんだからね。本当にこうして坐っていたって、しょっちゅう、ヒヤ/\しているんだよ。」
「落っこちる人は、あん
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