構なこってすな。――なかなか結構なこってすな。」
 小山には、山崎が、馬鹿々々しくはしゃぐ理由がちょっと分らなかった。

     四

 内川は三ツ股かけと呼ばれていた。
 カタイ大ッピラな燐寸工場以外、硬派と軟派を兼ねているからだ。
 ここの硬派、軟派は、新聞社内の二つの区別じゃ勿論なかった。武器を扱う商売が硬派だった。そして、阿片、モルヒネ、コカイン、ヘロイン、コデイン等を扱う商売が軟派だった。
 すべて、支那人相手の商売である。
 広い、広い、渾沌《こんとん》たる支那内地に居住する外国人の多くは、この硬派か軟派かを本当の仕事としていた。英国人もそれをやった。フランス人もそれをやった。ドイツ人もスペイン人もそれをやった。そして一方では支那人を麻酔さした。痴呆症となし了《おわ》らしめた。他方では軍閥や匪徒に武器と弾薬を供給した。
 戦乱と掠奪と民衆の不安は、そこからも誘導された。
 内川は頑固な一徹な目先の利く男だった。馬の眼をくり抜くのみならず、土匪の眼玉だってくり抜いたかも知れない。彼は、物事に熱中しだすと、散髪する半時間さえ惜しがった。胡麻塩頭をぼう/\と散乱さしひげむじゃの
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