囁いた。「こいつだけは、いくら共産党狩りをやったって、どこまでもだに[#「だに」に傍点]のように喰いついとるという話だな。――そんな共匪どもがこの町を占領したらどうなるんだね?――一体、どうなるんだね?」
「共産党は空気ですよ。隙間のあるところなら、どこへだって這入りこんで行くんでさ。しかし、それよりゃ、僕は、北伐軍がここまで漕ぎつけて来るだけの力があるかどうか、それが見ものだと思ってるんだがな。そいつを見きわめて置く方が先決問題だと思ってるんだがな。」
「何で、それを見きわめるかね?」
「金ですよ。」と、山崎は冷笑した。「十万の大兵を動かすには、二十万元や三十万元あったところで、二階から目薬にもなりませんからな。」
「金なら、総商会で最初に四百万円、あとから二百万円出しとるさ。」
「へええ、それゃ、又、誤報じゃないですな?」山崎は、又、冷笑するような声を出した。が、鯛でも釣ったように喜んだのは、色あせた机にツバキがとんだので分った。
「たしかにそれじゃ六百万円出したんですな。……そんならやって来ません。大丈夫やって来ません。それは結構なこってすな。総商会が六百万円献金したというのは結
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