[#「もの」に傍点]にしちゃどうだい? それなら、俺も手を貸してやるよ。」
「冗談はよせやい。――あんな腐れ婆にゃ、あき/\していら。何と云ったって、俺れゃ、処女でなけゃ駄目なんだ! 処女の味は、また、特別なもんだ! 二度とあんな娘は手に入れやしない!」
小山は支那家屋の兵士たちに、糞喰え! のような顔をして、そこを立ち去った。捕まえられた工人は彼のあとにつゞいた。
二五
竹三郎は、領事館警察の留置場から、S病院に出た。
彼は、瀬戸引きの洗面器の縁で、自分の足の小趾《こゆび》をぶち切った。
それで留置場から出ることが出来た。内地から来たての、若い外務省巡査が、しけこんだような顔をして、彼を監視して病院へついて来た。
マッチ工場で、蒋介石の抗議による守備区域の障害物の撤退、南軍と、日本軍との衝突の危険、などについて、軍隊自身よりも、支配人が気をもんだ。社員は、朝からそわそわした。
工人が、北伐兵の過激派と策応しないとも限らない。十時頃、幹太郎は、親爺が、S病院に出たことを知らされた。
お母《ふくろ》と、だぶ/\の詰襟の支那人が、咎めたてる巡警をつきのけて、い
前へ
次へ
全246ページ中188ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング