! それが分らんのか!」
「※[#「父/多」、第4水準2−80−13]呀《テイヤ》! ※[#「父/多」、第4水準2−80−13]呀《テイヤ》!」
 何も知らない一郎が、幹太郎の膝によってきた。

     二四

 塵埃《ほこり》ッぽい通りの一角に、露天商が拡げられた。
 支那人は、通りと同様に、赤銅色に塵埃をあびていた。店が財産である。露店のうしろには、半分出来さしの支那家具ががらんとしていた。
 青鼠の中山服の群れが通りかゝった。半信半疑で警戒を怠らなかった赤銅色の売手は、店をたゝむひまもなしに、忽ち、中山服に取りまかれた。わめき、罵詈《ばり》、溺れるような死にものぐるいの手と脚のもがき、屋台の顛覆。……哄笑に腹を波打たして、中山服は散らばった。皿と笊《ざる》にもられていた一ツの茹《ゆで》卵も、一と切れの豚肉の油煮も残っていなかった。
 中山服は、街をとび/\して歩きながら、快活に口をもぐもぐさした。向う側の通りでは、カーキ服が、棘《とげ》のある針金を引っぱって作業をつゞけていた。睨みあった。こちらが睨む。向うが睨む。石が飛んだ。
 その時、西はずれの、三倍の抵抗力にやり直した堅固
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