ンになった。
 翌晩、幹太郎は、妹がいるところで、
「いつまで中津先生、逃げ出さずに止《とどま》っているんだい。捕虜ンなっちまうぞ。」と云った。
「もう、張宗昌について行くのはやめたんだってよ。」
「何故だい?」
「何故だか知らないわよ。」と俊は、工場から、途中を誰何されながら帰ってきた兄に答えた。
「ずっとここに止っているんだってよ。」
「いつそれを云っていた? いつそれをきいた?」
「界首から帰った日にそう云っていたわよ。もう一週間も前に。――兄さんきかなくって?」
「俺が、何をきくか! 貴様、なぜ、それを俺れにかくしていた。」彼も、ヒステリックに呶鳴った。
「――あいつがいつまでも、ここに止っているのは、(彼は、ます/\いら/\しながら、)すゞをつけねろうてだぞ!」
「いやだわ。」俊までが、パッと紅くなった。「そんなことを云うもんじゃないわ。」
「馬鹿! 馬鹿! 貴様ら、親爺が、まだ出て来られないのを嬉しがっとるんだろう!」どうしたのか、幹太郎の機構までが狂ってしまった。二人の妹を睨んで、蹴とばすように呶鳴りつけた。「親爺と俺れがいないから、あんな奴が、のさばりこんでけつかるんだ
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