鍋釜をかついだ大行李の人夫等が、駅頭に着いた。
 一台の立派な自動車には、抜身のピストルを持った二人の少年兵が左右に立って、注意を怠らず、そこらにじろじろ眼を配っていた。少年は懸命の努力にも拘わらず、どうかすると、こッくりこッくりと、脳髄が執拗な睡眠に襲われ、立ったまゝひょっと他の世界に引きずりこまれそうになった。
 自動車は、前後、左右を騎兵によって守られていた。まだ、あとに自動車はつゞいている。
 一隊は、街頭の拒馬に遮られた。馬も、車も、速力をゆるめ、辛《かろう》じて、その間をくゞりぬけた。ピストルの少年が立っている自動車の窓から、ふと、面長の、稍《やゝ》、頬のこけた顔が、頸を出した。「これは何だね?」かんかん声で呶鳴った。
「これは、日本軍の作りつけたものであります。」
「何のために、横暴にも、こんなものを作りつけたんだ。」と、けいけいとした、黒玉のしょっちゅう動いている眼で、附近を見やりながら、「土嚢塁もあるし、鉄条網は、そこら中いっぱいじゃないか。」
「はい。」
「兵タイが立っている、機関銃まで据えつけている、……これは、わが革命軍に対して敵対行動をとるにも等しい仕わざじゃ
前へ 次へ
全246ページ中171ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング