中から、おかしい。笑いたくてたまらないものが、こみ上げて来て、なかなか眠れなかった。笑いを吹き出してしまって静まったかと思うと、また、一人が、「ふふふふッふ。」と、吹き出してくる。「両側から反革命の戦線を切り崩せ!」
 誰れの仕業か分らないことも、えらい人がすっかり仮面をぬいで慌て出してしまったことも、犯人が決して兵士たち自身でないことも、彼等を明るく愉快にした。高取は、幾度となく、毛布をかむって、眠ろうとした。が、誰れかの言葉がすぐ彼の気を散らした。又、子供らしい笑いが洞窟のような宿舎に響き渡る。……
 十一時すぎになった。彼等は、まだ眠っていなかった。ふいに、当直下士が、靴音荒くとびこんできた。
「起きろ! 起きろ! 皆んな起きろ!」
「また検査でありますか?」
「馬鹿ッ! 検査どころか。南軍が這入ってくるんだ。張宗昌が、今さっき城をあけて逃げ出してしまったんだ。徹夜警戒だ!」
「ふふふふふッふ。」
 兵士たちは、又、吹き出しながら起きあがった。

     二二

 張宗昌と孫伝芳は、戦わずに泰安を抛棄した。そして界首の線によって一時を支えようとした。
 しかし、黄河を迂回して、
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