護のために諸君は、支那の労働者、農民、兵士達と力を結合せ!――そうだ、全く、その通りだ!」
 まもなく、寄宿舎と工場内に大騒動が起った。兵士達は、その場に立たされた。慌てふためいた支配人、社員、中隊長、重藤中尉、特務曹長が、そこら中をかけずりまわった。
 ポケットがさぐられて、頬ッぺたがぶん殴られた。アンペラから、毛布から、背嚢から、私物まで、すっかりひっくりかえされてしまった。
 伝単が持ちこまれた径路と出所が厳重に詮索せられた。二百何十名かの工人は、一人々々裸体にひきむかれた。女工も素裸体にせられた。
 くさい[#「くさい」に傍点]工人は、キリストのように、柱にくくりつけられた。そして工人たちの底の平ぺったい汚れた支那靴が、しきりに宙を苦しげに踏んばっていた。
 伝単は、恐らく猿飛佐助でもが持ちこんだものだろう。誰の仕業だか、あきていやになるまで探しても分らなかった。
 兵士たちの殴られた頬は、まだ、ぴりぴりはしっていた。こんな場合、いつも真先に睨まれる高取は、頭に角《つの》のようなコブが出来ていた。ごったかえしたあとを掃除して、寝についた。油を搾られたにもかかわらず、彼等は、腹の
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