けが肥大して行くことだ。親爺は昔、学校の建築費を、町の芸妓へ注ぎこんだ村会議員をあばこうとした。そのことのために、却って坂の上から、突き落されてしまった。そして、転落がはじまった。
――最後の、もうそれ以上落ちるべき段階がないところまで、落っこちてしまわなければ承知されはしない! と、彼は思った。これは、人生の運とか、マンとかいうものじゃない。大きいやつが、かばわれるために、小さいやつが落っこちるのだ。そのために、われわれは皆んな、トコトンまで落っこちてしまわなければならないのだ! しかし、いつかは、巨大な大建築が土台石から、がた崩れに、くずれてしまう時が来る。来るにきまっている。
彼は、大根ナマスのように、白楊の素地が軸刻機にきざまれて軸木の山が出来て行く、刻作業部を通りぬけて、用材置場から、薄暗い兵士のいない宿舎をちょっとのぞいた。
背嚢や、毛布や、天幕や、外套が、乱雑に畳まれて、ごちゃごちゃと並べられていた。口をあけられた空鑵には、煙草の吸い殻が、うじ虫のようにつまっている。工人の大蒜や葱の匂いと、兵士の汗と革具の匂いが交錯して、寄宿舎の厚い重たい壁についているようだった。
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