いる于立嶺《ユイリソン》は、おどおどして、あたふたと頭をさげた。
「びくびくすんなよ。」
「はい、はい。」
傲慢で、ツンとした于立嶺が、全く、おびえきった子供のように変っていた。
「やっぱし、薬がきくんだな!」
小山の、軍隊の駐屯に対する感謝と、自分のやり方に対する、得意さは、一日々々顕著になっていた。リンチが度重なるに従って、工人の挙動がおとなしくなってきた。社員に、おべっかを使うように、ペコペコ頭を下げた。
「畜生! こんなに卑屈に落ちぶれたって、やっぱしコツコツと働かなきゃならないのが工人だ。――動物! こいつらは、全く、睾丸を抜き取られてしまった、おとなしい動物だ!」
しかし、幹太郎は、自分たち自身も、反抗もなにもよくしない、おとなしい動物だと感じた。
彼には、親爺がいつまでも留置場から出られないことも、彼等の家が何ものにも保護されず、工場が、ひたすら堅固に守られることも、食えない工人達の当然すぎる賃銀支払の要求が、拒絶せられ、その上、一人々々が殴られることと同様に、すべて、ある一ツの原則から、出ているように感じられた。
それは無数の小さいものを犠牲にして、大きい奴だ
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