もがくほど喰いこむ。樹の工人は、息がきれそうに喘いだ。
「私は、生意気者で、……悪者で……ございましたんです。……」喘ぎ喘ぎ風のように、工人は、白い泡と一緒に言葉を吐いた。
 ――これは、一度兵士達が見つけて以来、勤務について、寄宿舎にいなくなった留守を見はからって敢行された。特務曹長からの注文だったのである。兵士は南軍接近の知らせに、警備手配に忙殺されていた。
 工場の空気は、幹太郎を忌避し、敬遠した。幹太郎自身も、それを感じないではいられなかった。
「やっぱし俺は、お払い箱だ! あの態度は、俺からトットと出て行けと云ってるんだな。」
 支配人と小山にまつわっている不思議な、ばつの悪さを感じながら、彼は考えた。
「馘《くび》にならんさきに、自分から、出て行けッと云うんだな。」
 彼はその原因が、親爺の支那人なみのヘロ中と、王洪吉の賃銀を代って要求してやったことにあるのを知っていた。
 彼は、時々、事務室をぬけ出した。請負作業の出来高を調べるものゝように、仕事場に這入った。殊更、注意深く、工人達を観察した。
 稍《やゝ》、うつむきこんで軸列器をがちゃがちゃ鳴らし、木枠に軸木を植えつけて
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