によって二重に守られた。
「いずれ、俺の頸がとぶのも近いうちのこった!」
 これを口の内で呟くと、幹太郎の表情は淋しげになった。
 彼は、軍隊の到着以来、小山が、気に喰わない工人達に、虱つぶしに、リンチを加えるのを目撃していた。一つは、それは彼にあたっている。
 工人は、ぬれた皮の鞭でしぶきあげられ爪の裏へ針をつき刺されるばかりではなかった。
 ある者は、電話をかけていた。と、そのうしろから、ふいに送話器の喇叭状の金具をめがけて、急激に、ドシンと突きつけられた。壁の電話がガチャンと鳴った。鼻が送話器にお多福饅頭のようにはまった。顔の中央は、鼻梁が真中から折れて、喇叭の型に円く窪んでしまった。血の玉がたらたら垂れた。ある者は、十字架に釘づけにされるように、脚を宙に浮かして、アカシヤの幹から枝にかけて縛りつけられた。
「私、生意気者で、油売り、横着者で、悪者で……これが見せしめ……これが見せしめ……。」
 アカシヤに縛りつけられた工人は、枝にぶらさがったまま、一千回繰りかえさせられた。うらなりのトマトのような少年工が、その樹の下で、回数をかぞえた。繩が四肢や胴体に喰いこんでいる。もがけば、
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