んな奴に赤化宣伝をされちゃ、お前達の面目があるめえ!」
「中尉殿、ヒョウキンな話をして居るだけであります。あのチャンコロ、一寸、日本語が分るんであります。」と高取は云った。
「嘘云うな! 聞いて知っとる!」急激に中尉の顔は、けわしくなった。「ヒョウキンな奴でもなんでもいかん! 散れ! 散れ! 散って寝ろ! 用心しろ!」
「はい。用心します。」
兵士たちは、時以礼の話に心を引かれた。そして、その周囲に集った。宿舎はいつも暗かった。壁は、ボロ/\と剥げ落ちて来そうだ。そこは、虐げられ、苛まれた人間ばかりが集ってくる洞窟のように感じられた。
兵士と工人、これは同一運命を荷っている双生児ではないだろうか? 昼間の憔々《いら/\》しい労働は、二人を共に極度の疲憊《ひはい》[#「疲憊」は底本では「疾憊」]へ追いこんでいた。
俺れらは、この支那人の工人をいじめつけて、結局は、俺れら自身の頸をくゝっているんだぞ。工人達がいじめつけられてそいつが嬉しいのは大井商事だけだ。ほかの誰れでもないのだ。
高取は簡単にその話をした。いぶかしげに頸を振る者もあった。高取は、又話をした。補足するつもりだ。俺れ
前へ
次へ
全246ページ中153ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング