税金を出せという。公司、仲買人の持ってきた髪を、また六割か、五割に値切る。――仲買人、掛値を云うて持ってくる。私の親爺、昔の人、辮髪税、取られている。親爺、辮髪切りたくない。仲買人、巡警と来て、切れ、切らなければ、税金をとるという。――そんな税金、仲買人と、巡警が勝手にこしらえた税金、そんな税金ない。でも、辮髪きらない、税金無理やり取って行く。英吉利人の公司、仲買人と巡警に金掴ましている。……英吉利人、米国人、独逸人、日(云いかけたが、時以礼は口を噤んだ)……みな、支那、百姓、工人、苦るしめる。私達生きる。つらい!」
「エヘン!」
 雷のような咳払い。がちゃッという、軍刀と靴の音。すぐ、兵士達の背後で起った。重藤中尉が、知らぬまにうしろへ来て立っていた。びくッとした。
 時以礼は、唖のように口を噤んでしまった。中尉は、時《シ》を、六角の眼でじいッと睨みつけていた。支那人は、罪人のように、悄々《しお/\》とうなだれて立上った。そして、力なく肩をすぼめて、音響《ひゞき》一ツ立てずに去ってしまった。
「あいつは、お前達に思想宣伝に来とるんだろう。ここの工場にだって赤い奴が這入っとるんだぞ。あ
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