よこすか、今か、今か、と待っていた。――幹太郎は、それを知っていた。
それは、実に、見ッともないざまだった。
彼は、飢《う》えた宿なしの犬のように、あらゆる感覚を緊張さして、どこでも、くん/\嗅ぎまわっていた。自分より新米の者の前では、すっかり、その本性の野獣性を曝露する小山は、支配人が居るとまるで別人になった。無口に、控え目になった。山崎は、内川に使われている人間でないだけ、まだ、無雑作で平気だった。しかしそれも、故意に無雑作をよそおっていた。無雑作のかげから、迎合する調子がとび出した。
小山は、支配人が興味を持つことなら、もう十年間も土地《つち》を踏んだことのない内地の、新聞紙上だけの政治にも、なか/\興味をよせた。――よせた振りを見せた。
彼は、内川の暗い顔を見て、すぐそれに反応した。
「めった、今度は去年あたりよりゃあいつ[#「あいつ」に傍点]らの景気がいいと思ったら、独逸が新しい武器を提供しとるそうじゃありませんか?」
「うむむ。」
内川は唸った。
「どれっくらいですかな? その数量は?」
今朝来たばかりの封書の口を引っぺがしてぬすみ見した。ぬすみ見して、その数量
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