い顔をして二重硝子の窓の傍に陣取っていた。その顔は、この工場と同じように、規則正しくかたまって、乾き切っていた。これが支配人である。
「なんだ、あんたが来ると馬鹿に大蒜《にんにく》くさいや。」
 内川はブッキラ棒に笑った。その笑い方までが乾燥していた。
「それゃありがたい。これで大蒜の匂いがすりゃ、支那人と一分も変りがないでしょう。どうです?」
 山崎は、自慢げに、幇間《ほうかん》のような恰好をした。
「自分でそう思っていれば、それが一番いゝや、世話がいらなくって。」
「我和中国人不是一様※[#「口+馬」、第3水準1−15−14]《ウンホツンゴレンブシイヤンマ》。怎※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]不一様《ソンモブイヤン》、那児有不一様的様子《ナアルブイヤンテヤンス》?」
 急に山崎は支那語で呶鳴った。どこが俺ゃ支那人と異うのだ――というような意味だ。しかし、それは、明かに冗談でむしろ、内川を喜ばす一つの手段の如く見えた。
 彼は、古鉄砲でウンと儲けた内川から約束通りのもの[#「もの」に傍点]をせしめようと念《こころ》がけていた。今にも出して
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