働いていた。木谷は、几帳面《きちょうめん》で、根気強い活溌な性質がとくをして、上等兵になっていた。
 高取は一年間の勤めを了えて、二年兵になったその日に、歩哨に立っている場所を離れて鶩《あひる》を追っかけまわした。そして軍法会議にまわされた。
 彼は、夕暮れに、迷《ま》い児《ご》となった遅鈍な鶩を、剣をつけた銃で突き殺そうとした。そして、追っかけた。
 練兵場から、古いお城の麓の柴山の中にまで、五町ほど、鶩を追って、追いこんでしまった。鶩は、ぶさいくな水かきのある脚を、破れるばかりにかわして、ひょくひょくした。とうとう突き殺せなくて、靴で踏みつぶした。彼はホッとした。そして長い頸を垂れた鶩の脚を提げて立ちあがった。その時、巡察将校に見つかってしまった。
 彼は、償勤兵となったことを、恥ずかしがりもしなければ、引けめに感じもしなかった。機械を使うのがすきだった。殊に、軽機関銃を使うのがすきだった。空砲射撃の時にでも、多くのよせて来る奴等を、この銃一ツで、雨が降り注ぐようにやッつけることを想像しながらタッタタタとやっていた。
 すこし馬鹿な、まがぬけた彼の性質が、みなの人気をあおっていた。
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