けても、まっさきにここは占領しなけりゃならんと思ってるんだな。」
「そうだよ、そうだよ、支那を取るためにそう思ってるんだよ。」
「しかし、俺等は、俺等として出来るだけサボって邪魔をしてやるさ。鉄砲をうてと云われたって、みんなうたねえんだな。」
 だが、彼等は、まだ、自分たちの支配者を憎み、出兵に反対していたが、皆なが同じ一つの意見を持っているのではなかった。
 この現在の持場において俺等が、今すぐ、一箇師団を内地へ引き上げさし、支那から手を引かすことは、なし得ない。出来ない相談だ。しかし俺等は、俺等として仕事がある。如何に、軍隊が、俺等の目あてに反することに使われていようが、それだからと云って軍務を放棄してはいけない。俺等は、俺等が、本当に生れ出る日のために、市街戦を習っておくのだ。装甲自動車の操り方を習っておくのだ。その日のために戦うのだ。
 木谷は、小声で語った。高取は、半分頷き、半分かぶりを振った。
「その日のためにか。それはいゝ。しかし、君はいつも気が長いぞ。しかし、現在、吾々の眼前で、吾々の手で叩きつぶされつゝある支那の労働者はどうするか?」
 二人は、入営前まで、同じ工場で
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