りやるんだい! と云ってやったら、しっかり、あっちの連中と手を握って来い! とおらんでるんだよ。」
 のんきに、高らかな声を出した。
 傍へ特務曹長がきかゝった。誰かを呼びに来た。彼は「しっかり、チャンピーと手を握って行くかな。」
 と大声で、又笑った。
 無意識に破れかけのアンペラのはしを、ひきむしる彼の手は、マメだらけで、板のようにかたくなっていた。
「工藤は、とうとう、船の中で片づけられちまったよ。」尻眼で特曹に気を配りながら、木谷が囁いた。
「一人で意気まいたって駄目だからと、止めたんだがね、あいつ、多血質だから、きかないんだ。」
「今度は、なかなか労働組合や、俺等の反対に敏感になっている。」高取がしめつけられるように声をひくめた。「日独戦争や、シベリア出兵時代とは、時代が違うからね。俺等もブルジョアの手先に使われてたまるかい、くらいなこたア知ってるが、ブルジョアもまた、俺等の出兵反対に敏感になってる。三月十五日の検挙はやる、四月十日の左翼の三団体の解散は喰らわす。それから出兵。何から何まですべてが、ブルジョアの方が、はるかに用意周到で組織的じゃないか。」
「どんな障害を押しの
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