わしやがったくらいにゃ、承知しねえぞ! ヒョットコ野郎奴!」
 小山は、あっけにとられた。
「叩き殺してくれるぞ。ヒョットコ野郎奴!」
 兵士は高取だった。

     一八

 後発部隊が到着した。寄宿舎は狭くなった。
 ベッドもなく、藁蒲団もなく、床の上に毛布をのばして、ごった寝にねた。高梁稈のアンペラが破れかけていた。下から南京虫がごそ/\と這い出してくる。
 南京虫は、恐らく、硫黄や、黄燐くさい、栄養不良な工人の病的な肌の代りに、どうしたのか急に、汗と脂肪《あぶら》ぎった溌剌たる皮膚があるのを感じて、いぶかしげな顔をしただろう。
 高取は、あとからきた者達と、暫くあわずにいた。その間の行程を、おたがいに話しあった。
 彼等は、門司から御用船に乗る際、同様にビラを拾っていた。それを胸のポケットへ、畳んで、お守りのように大事に、しのばしている者もあった。
「俺等が桟橋通りを歩いていたら、天からビラの雨が降ってくるじゃねえか。」と彼は笑った。
「上を向いたら、なんだ、組合の安川が窓から頸を出して、引っこめよう、としとるところだよ。――しっかりやって来い! と呼ぶから、どんなに、しっか
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