。その意識は、棍棒の暴威を、三倍も四倍にも力づけた。
把頭の李蘭圃《リランプ》は、平《ひら》工人よりは、一日に二十三銭だけ、よけいに内川からめぐんで貰っている。それだけの理由で、この支那人は、自分が日本人であるかのように、カーキ色の軍隊が、自分の保護者となり、自分の勢力となり、自分の樫の棒に怨《うらみ》を持つ、不逞の奴等や、回々《フイ/\》教徒を取りひしいで呉れるものと、一人ぎめにきめこんでいた。工人達をなだめたり、すかしたり、おどかしたりした。内川や小山のために、スパイの役目をつとめるのも彼だった。囮《おとり》の役目をつとめるのも彼だった。
兵士達は、工人のやることには、なんらの干渉をもしなかった。しないつもりだった。のみならず、工人を守った。そして、工場を守った。しかし、それでも工人は、軍隊に庇護される感じは受けずに、威嚇されるのだった。
兵士は守備区域の作業をつゞけた。街路には、縦横無尽に、蜘蛛の巣のような、鉄条網が張りめぐらされた。辻々には、ゴツゴツした拒馬が頑張った。
旅団司令部と、大隊本部の間は、急設電話によって連絡された。大隊本部と、歩哨線も、緊密に連絡された。兵
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