背に敵を受けとるからだべ。」
 彼等は、入口に立っている陳と山崎に気づくと、ふと口を噤《つぐ》んで、訝《いぶ》かしげに、二人を見すえた。
「呀《ヤ》! 吃晩飯了※[#「口+馬」、第3水準1−15−14]《チワンファンラマ》! (いよう、今晩は。)」
 つとめて気軽く、山崎は部屋の中へ一歩踏みこんだ。その時、彼は、陳が、黒服の支那人と眼でお互いに笑い合ったような気がした。
 隅の暗いところで武器をいじっていた、いな[#「いな」に傍点]頭の若い男は、彼の声をきゝつけて、わざ/\ほかの者の前に来て、じっとこっちの顔を見た。
「諸君は、どっちからやって来たんだね。……上海の方は大変景気がいゝって話じゃないか。本当かね。」
 誰も、何とも答えなかった。お互いに、何かもの云うような眼で顔を見合って、黙っていた。山崎は、あまり話が上わずッていたと、また後悔しながら、心臓に押しよせる血の高鳴りを聞いた。
 部屋の中には、約二十挺の鉄砲と、箱に這入った拳銃が古靴を積重ねた傍に置いてある。一方の白い壁には、日本と朝鮮の地図を両足に踏んだ田中義一が、悪魔のような爪の伸びた長い手で、満洲、蒙古、山東地方を一掴
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