のは、田地持ちの分限者の「伊三郎」と姻戚関係になったからである。おふくろが満足したのは、トシエが二タ棹の三ツよせの箪笥に、どの抽出しへもいっぱい、小浜や、錦紗や、明石や、――そんな金のかかった着物を詰めこんで持って来たからである。虹吉が満足したのは、彼の本能的な実弾射撃が、てき面に、一番手ッ取り早く、功を奏したからである。
朝五時から、十二時まで、四人の親子は、無神経な動物のように野良で働きつゞけた。働くということ以外には、何も考えなかった。精米所の汽笛で、やっと、人間にかえったような気がした。昼飯を食いにかえった。昼から、また晩の七時頃まで働くのだ。
トシエは、座敷に、蝿よけに、蚊帳を吊って、その中に寝ていた。読みさしの新しい雑誌が頭のさきに放り出されてあった。飯の用意はしてなかった。
「子供でも出来たら、ちっとは、性根を入れて働くようになろうか。」
飯を食って、野良へ出てから母は云った。兄はまだ、妻の部屋でくず[#「くず」はママ]/\していた。
「たいがい、伊三郎では、何ンにも働くことを習わずに遊んで育った様子じゃないか。」
「俺れゃ、そんなこと知らん。」
「ちっと、虹吉がや
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