かましく云わないでか!」
母は、女房に甘い虹吉を、いま/\しげに顔をしかめた。
「そんなことを云うたって、お母あは、家が狭くなるほど荷物を持って来たというて嬉しがっとったくせに。」と、私は笑った。
「ええい、荷物は荷物、仕事は仕事じゃ。仕事をせん不用ごろが一番どうならん。」
兄は、妻をいたわった。働いて、麦飯をがつ/\食うことだけに産れて来たような親爺とおふくろから、トシエをかばった。彼女の腰は広くなった。なめらかで、やわらかい頬の肉は、いくらか赭味を帯びて来た。そして唇が荒れ出した。腹では胎児がむく/\と内部から皮を突っぱっていた。
四
百姓は、生命よりも土地が大事だというくらい土地を重んじた。
死人も、土地を買わなければ、その屍を休める場所がない。――そういう思想を持っていた。だから、棺桶の中へは、いくらかの金を入れた。死人が、地獄か、極楽かで、その金を出して、自分の休息場を買うのである!
母が、死んだ猫を埋めてやる時、その猫にまで、孔のあいた二文銭を、藁に通して頸にひっかけさし、それで場所を買え、と云っていたのを僕は覚えている。
金は取られる心配がある
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