。家は焼けると灰となる。人間は死ねばそれッきりだ。が、土地だけは永久に残る。
そんな考えから、親爺は、借金や、頼母子講《たのもしこう》を落した金で、ちびり/\と田と畠を買い集めた。破産した人間の土地を値切り倒して、それで時価よりも安く買えると彼は、鬼の首を取ったように喜んだ。
七年間に、彼は、全然の小作人でもない、又、全然の自作農でもない、その二つをつきまぜたような存在となった。僅か、六|畝《せ》か七畝の田を買った時でさえ、親爺と母はホクホクしていた。
「今年から、税金は、ちっとよけいにかゝって来るようになるぞ。」
土地を持った嬉しさに、母は、税金を納めるのさえ、楽しみだというような調子だった。兄と僕は傍《そば》できいていた。
「何だい、たったあれっぽち、猫の額ほどの田を買うて、地主にでもなったような気で居るんだ。」兄は苦々《にが/\》しい顔をした。
「ほいたって、あれと野上の二段とは、もう年貢を納めいでもえゝ田じゃが。」
「年貢の代りに信用組合の利子がいら。」
「いゝや、自分の田じゃなけりゃどうならん。」と、母は繰りかえした。「やれ取り上げるの、年貢をあげるので、すったもんだ云
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