ぶくにはれて、向う脛《ずね》を指で押すと、ポコンと引っこんで、歩けない娘も帰って来た。病気とならない娘は、なか/\町から帰らなかった。
 そして、一年、一年、あとから生長して来る彼女達の妹や従妹は、やはり町をさして出て行った。萎《しな》びた梨のように水々しさがなくなったり、脚がはれたりするのを恐れてはいられなかった。
 若い男も、ぼつ/\出て行った。金を儲けようとして。華やかな生活をしようとして。
 村は、色気も艶気《つやけ》もなくなってしまった。
 そして、村で、メリンスの花模様が歩くのは「伊三郎」のトシエか、「徳右衛門」のいしえ[#「いしえ」に傍点]か、町へ出ずにすむ、田地持ちの娘に相場がきまってしまった。
 村は、そういう状態になっていた。
 メリヤス工場の職工募集員は、うるさく、若者や娘のある家々を歩きまわっていた。

      三

 トシエは、家へ来た翌日から悪阻《つわり》で苦るしんだ。蛙が、夜がな夜ッぴて水田でやかましく鳴き騒いでいた。夏が近づいていた。
 黄金色の皮に、青味がさして来るまで樹にならしてある夏蜜柑をトシエは親元からちぎって来た。歯が浮いて、酢ッぱい汁が歯
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