は、十六だった。春のことである。
地主の娘と、小作兼自作農の伜との結婚は、家と家とが、つり合わなかった。トシエ自身も、虹吉の妻とはなっても、僕の家《うち》の嫁となることは望んでいなかった。
が、彼女は変調を来した生理的条件に、すべてを余儀なくされていた。
「やちもないことをしてくさって、虹吉の阿呆めが!」
母は兄の前では一言の文句もよく言わずに、かげで息子の不品行を責めた。僕は、
「早よ、ほかで嫁を貰うてやらんせんにゃ。」
母と、母の姉にあたる伯母が来あわしている縁側で[#「縁側で」は底本では「椽側で」]云った。
「われも、子供のくせに、猪口才《ちよこざい》げなことを云うじゃないか。」いまだに『鉄砲のたま』をよく呉れる伯母は笑った。「二十三やかいで嫁を取るんは、まだ早すぎる。虹吉は、去年あたりから、やっと四斗俵がかつげるようになったばッかしじゃもん。」
僕は、猪口才げなと云われたのが不服でならなかった。
伯母の夫は、足駄をはいて、両手に一俵ずつ四斗俵を鷲掴みにさげて歩いたり、肩の上へ同時に三俵の米俵をのっけて、河にかけられた細い、ひわ/\する板橋を渡ったりする力持ちだった。
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