茸の時期だけ傭われていた。卯太郎《うたろう》という老人だ。彼自身も、自分の所有地は、S町の方に田が二段歩あるだけだった。ほかはすべてトシエの家の小作をしている。貧乏人にちがいなかった。そいつが、人を罵る時は、いつも、「貧乏たれ[#「たれ」に傍点]」という言葉を使った。
「貧乏たれ[#「たれ」に傍点]に限って、ちき生! 手くせが悪れぇや、チェッ!」
卯太郎は唾を吐いた。礫《つぶて》を拾って、そこらの笹の繁みへ、ねらいもきめずに投げつけた。石はカチンと松の幹にぶつかって、反射してほかへはねとんだ。泥棒をする、そのことが、本当に、彼には、腹が立つものゝようだった。
番人が、番人小屋の方へ行ってしまうと、僕等は、どこからか、一人ずつヒョッコリと現われて来た。鹿太郎や、丑松や、虎吉が一緒になった。お互いに、顔を見合って、くッ/\と笑った。
「もう一ッペン、あの卯《う》をおこらしてやろうか。」
「うむ。」
「いっそ、この縄をそッと切っといてやろうよ。面白いじゃないか。」
「おゝ、やったろう、やったろう。」
二
七年して、トシエは、虹吉の妻となった。虹吉は、二十三だった。弟の僕
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