どり[#「いたどり」に傍点]や、野莓がなんぼでもなる山があるといゝんだがなア。」
 ふと、心から、それを希《こいねが》ったりした。
 秋になると、トシエの家には、山の松茸の生える場所へ持って行って鈴をつけた縄張りをした。他人に松茸を取らさないようにした。
 そこへ、僕等はしのびこんだ。そして、その山を隅から隅まで荒らした。
 這入って行きしなに縄にふれると、向うで鈴が鳴った。
すると、樫の棒を持った番人が銅羅声《どらごえ》をあげて、掛小屋《かけごや》の中から走り出て来る。
 が、番人が現場へやって来る頃には、僕等はちゃんと、五六本の松茸を手籠にむしり取って、小笹が生いしげった、暗い繁みや、太い黒松のかげに、息をひそめてかくれていた。
「餓鬼《がき》らめが、くそッ! どこへうせやがったんだい! ド骨を叩き折って呉れるぞ!」番人は樫の棒で、青苔のついた石を叩いた。
 口ギタなく罵る叫びは、向うの山壁にこだました。そして、同じ声が、遠くから、又、帰って来た。
「貧乏たれ[#「たれ」に傍点]の餓鬼らめに限って、くそッ! どうもこうもならん! くそッ!」
 番人は、トシエの親爺に日給十八銭で、松
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