そば》でだまってきいていて、朴訥な癖に、親爺が掛引がうまいのに感心した。坪二円九十銭なら、のどから手が出そうだのに、親爺はまるッきり、そんな素振りはちっとも現わさないのだ。
とうとう、三円五十銭となった。
家の田と畠は、三カ所、敷地にひっかゝっていた。その一つの田は、真中が敷地となって、真二ツに切られ、左右が両方とも沿線となるようになっていた。
敷地ばかりでなく、沿線一帯の地価が吊り上った。こんなうまいことはなかった。
田と畠を頼母子講の抵当に書きこみ、或は借金のかわりに差押えられようとしていた自作農は、親爺だけじゃなかった。庄兵衛も作右衛門も、藤太郎も、村の自作農の半分はそういう、つらいやりくりであえいでいた。それが、息を吹きかえしたように助かった。地主はホク/\した。卯太郎は、いつか五千円で町に近い田を売って、そのうちの八十五円で畠を買った。その畠が、また今度、鉄道の敷地にかゝっていた。
「貧乏たれ[#「たれ」に傍点]が、ざま見い。うら等、やること、なすことが、みんなうまくあたるんじゃ。わいら、うらの爪の垢なりと煎じて飲んどけい。」
彼は太平楽を並べていばっていた。
「何
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