いの?」
「籾擂を機械に頼みゃ、唐臼をまわす世話はいらず、らく[#「らく」に傍点]でええけんど、頼みゃ、頼んだだけ銭がかゝるんじゃ。」
「あの、屋根裏のおかしげな音は何ぞと云ってるんだ!」
「なに、なんじゃ。――屋根裏に銭があると云いよるんか?」
おふくろはぼれ[#「ぼれ」に傍点]かけた。
よなべに作る藁草履を捨てゝ地下足袋を買えば、金がいる。ポンプも、白熱燈も、親玉号も、みな金だった。その割に、売る米の値は上るどころじゃなかった。そこで、土地土地土地と、土地を第一に思っていたおふくろが、ぼれたなりに、今度は銭銭銭《ぜに/\/\》と、金のことばかりを独りごとに呟きだした。
八
「孫七」の娘のお八重が、見知らぬ男と睦まじげに笑いかわしながら、自動車からおりて来た。
情夫かと思うと、夫婦だった。
「太助」のお政も、その附近の者の顔ではない、別のタイプの男をつれて帰って来た。
素性の知れた、ところ[#「ところ」に傍点]の者同志とでなければ、昔は、一緒にはならなかった。同村の者でなければ隣村の者と。隣村の者でなければ隣々村の者と。そして、夫婦をきめるのは、自分でなく、や
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