の新案特許の枠《わく》を持って来た。撥《は》ね釣瓶《つるべ》はポンプになった。浮塵子《うんか》がわくと白熱燈が使われた。石油を撒き、石油ランプをともし、子供が脛《すね》まで、くさった水苔くさい田の中へ脚をずりこまして、葉裏の卵を探す代りに。
 苅った稲も扱《こ》きばしで扱き、ふるいにかけ、唐臼ですり、唐箕《とうみ》にかけ、それから玄米とする。そんな面倒くさい、骨の折れる手数はいらなくなった。くる/\廻る親玉号は穂をあてがえば、籾が面白いほどさきからとび落ちた。そして籾は、発動機をかけた自動|籾擂機《もみすりき》に放りこまれて、殻が風に吹き飛ばされ、実は、受けられた桶の中へ、滝のように流れ落ちた。
 おふくろが、昔、雨の日に、ぶん/\まわして糸を紡いだ糸車は、天井裏の物置きで、まッ黒に煤けていた。鼠が時に、その上にあがると、糸車は、天井裏でブルン/\と音をたてた。
「あの音は、なんぞいの?」
 晩のことだった。耳が遠くなったおふくろは、僕のたずねたことが聞えずに、一人ごとをつゞけていた。
「武井から、今日の昼、籾擂代を取りに来たが、その銭はあるか知らん?」
「あのブルン/\という音は何ぞ
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