そして、僕が、兄に代って、親を助けて家の心配をして行かなければならない、番になった。
こいつは、引き合わん、陰気くさい役目だ。
七
十六燭光を取りつけた一個の電燈は、煤と蝿の糞で、笠も球も黒く汚れた。
いつの間にか、十六燭は、十燭以下にしか光らなくなっていた。電燈会社が一割の配当をつゞけるため、燃料で誤魔化しをやっているのだった。
芝居小屋へ活動写真がかゝると、その電燈は息をした。
ふいに、強力な電燈を芝居小屋へ奪われて、家々の電燈は、スッと消えそうに暗くなった。映写がやまると、今度は、スッと電燈が明るくなる。又、始まると、スッと暗くなる。そして、電燈は、一と晩に、何回となく息をするのだった。
自動車は、毎日々々、走って来て、走り去った。雨が降っても、風が吹いても、休み日でも。
藁草履を不用にする地下足袋や、流行のパラソルや、大正琴や、水あげポンプを町から積んで。そして村からは、高等小学を出たばかりの、少年や、娘達を、一人も残さず、なめつくすようにその中ぶるの箱の中へ押しこんで。
自動車は、また、八寸置きに布片の目じるしをくゝりつけた田植縄の代りに木製
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