、自分の心のまことを、そのまゝ吐露したものである。――そういう風に云った。戦争に行く息子を親が新橋まで見送って、「達者で気をつけて無事で行って来い!」と別れの言葉を云う。その気持と同じ気持を歌ったものである、と。
 この詩は、全然個人的な気持から戦争に反対している。生活の中心がすべて個人にあった。だから最も恐ろしいのは、死である。殺し、殺されることである。
 人道主義になると、五十歩百歩ではあるが、いくらか考え方が広汎になり、戦争の原因を追求しようとする慾求が見えて居る。中途半ぱな、生ぬるいところで終ってしまっては居るが。
 武者小路実篤の「或る青年の夢」は、欧洲大戦当時に出た。これは、人道主義の戦争反対である。
 この場合に於ても、死の恐怖、人間が、人間らしい生活が出来ない悲惨を強調している。ところがこゝでは個人よりも人類が主として問題になっている。戦争は、他国の文明を破壊し、他国を自国の属国にしようとするところから起って来る。他国を属国とし、他国を征服すれば得をすると考える利己主義者があるから起って来るのだ。けれども、その利己主義が誰れであるか、それは考えていない。戦争をなくするに
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