囲軍に加わって戦争に出たのを歎いて歌ったものである。同氏のほかの短歌や詩は、恋だとか、何だとかをヒネくって、技巧を弄し、吾々は一体虫が好かんものである。吾々には、ひとつもふれてきない。が、「君死にたまふことなかれ」という詩だけは、七五調の古い新体詩の形に束縛されつゝもさすがに肉親に関係することであるだけ、真情があふれている。

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旅順の城はほろぶとも
ほろびずとても何事か
君知るべきやあきびとの
家のおきてになかりけり

君死にたまふことなかれ
××××××は戦ひに
××××からは出でまさね
かたみに人の血を流し
獣《けもの》の道に死ねよとは
死ぬるを人のほまれとは
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 勝手に数行を引いたのであるが、××は筆者がした。××にしなければ、今日では恐らく発禁ものであろう。[#引用部分伏せ字の原文は、それぞれ「すめらみこと」と「おほみづ」]
 当時、大町桂月が、この詩が危険思想であるというので非難した。国を挙げて戦争に熱狂していた頃である。戦争反対を声明したのは、僅かに平民新聞だけであった時代である。作者は、桂月の非難に弁解して、歌は歌であって
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