間じゃねえぞ!」
「畜生! 何もかも、検査官に曝露してやれい! 気味たいがえゝ程やったろう!」
彼等は、不服と、腹立たしさの持って行きどころがなかった。
監督が上にあがって行くと、出しかけていた糞桶をまたもとの廃坑へ放りこんだ。斜坑の柵や新しくかった支柱は、次から次へ、叩きはずした。八番坑の途中に積んでいた塀も突きくずされた。三木脚の松ツァンは、ひょっくひょっくそこを通り越して息子がへしがれている洞窟へ這入って行った。支柱がはずされたあとは、くずれた岩や土が、柱が突きはずされると同時に、凄《すさ》まじい音を立てゝなだれ落ちて来た。
「こういうところを見せてやりたいなあ!」
十一時頃に、井村は、坑口にまで上ってきた。そして検査官が這入って来るのを待った。川の縁の公会堂附近に人がだいぶ集っている気配がして唄のようなものがきこえてきた。
今日こそ、洗いざらい、検査官に、坑内が、どれだけ危険だか見せてやることが出来る。どれだけ法規違反ばかりをやっているか見せてやることが出来る。――彼は、どれだけの人間が、坑内で死んじゃったかそれを思った。まるで、人間の命と銅とをかけがえにしているのと同
前へ
次へ
全38ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング