ジに乗って昇降するたびに、ヒヤ/\せずにいられなかった。それは、いつ、ぷすりと継ぎ目がぬけるか分らないのだ。その捲綱が新しいやつに取りかえられていた。廃坑の入口は、塞がれた。横坑から分岐した竪坑や、斜坑には、あわてゝ丸太の柵を打ちつけた。置き場に困る程無茶苦茶に杉の支柱はケージでさげられてきた。支柱夫は落盤のありそうな箇所へその杉の丸太を逆にしてあてがった。
 阿見は、ボロかくしに、坑内をかけずりまわっていた。
 三本脚の松ツァンが八番坑から仕方なく皆について出て来ると、そこは直ちに、塀を持って来て坑道が途中から塞がれることになった。松ツァンは一番最後に、松葉杖にすがって、ひょく/\出て来た。彼の顔は悲しげにひん曲り、眼だけが、カンテラにきら/\光っていた。
「いつも俺等に働かすんは、あぶないところばっかしじゃないか。――そこを、そんなり、かくさずに見せてやろうじゃないか。」
「そうだ、そうだ。」
「馬鹿々々しい上ッつらの体裁ばかり作りやがって、支柱をやらんからへしゃがれちゃったんじゃないか! それを、五日も六日も、そのまゝ放《ほう》たらかしとくなんて、平気でそんなことがぬかせる奴は人
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