凹みに誰れか生き残っている希望は失われて行った。張子の人形を立っているまゝ頭からぐしゃりと縦に踏みつけたようなのや、××も、ふくよかな肉体も全く潰されて、たゞもつれた髪でそれと分る女が現れてきた。
三本脚の松ツァンは、屍体が引っぱり出されるごとに鼻をすりつけてかぎながら、息子の名を呼んだ。彼は、ボロ切れをまきつけた脚でいざりながら、鑿岩機を使ったり、槌を振り上げたりした。
よう/\九人だけ掘り出した。が、まだ市三は見つからなかった。
役員が這入って来た。そして、皆《みん》な洞窟から出るように云いつけた。
「どうするんだ?」
「検査だ、鉱山監督局から厄介なやつがやって来やがった。こんなところを見られちゃ大変だよ。」
「だって、まだ、ここにゃ五人も仲間が、残っとるんだぞ!」
「なあに、どうせ、くたばってしまって生きとれゃせんのだから二日、三日掘り出すんがおくれたっていゝじやないか。」
六
鉱山監督局の技師には、危険な箇所や、支柱や柵をやってないところや、水が湧き出る部分は見せないようにつくろっているのだ。切れた捲綱を継ぎ合して七カ月も厚かましく使っていた。坑夫はケー
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