監督は念を押して、繰かえした。
 三ツの屍《しかばね》は担架に移された。それから竪坑にまでかついで行かれ、一ツ/\ケージで、上に運びあげられた。
 坑内で死亡すると、町の警察署から検視の警官と医者が来るまで、そのまゝにして置かなければならない。その上、坑内で即死した場合、埋葬料の金一封だけではどうしてもすまされない。それ故、役員は、死者を重傷者にして病院へかつぎこませる。これが常用手段になっていた。
「可愛そうだな!」坑夫達は担架をかついで歩きながら涙をこぼした。「こんなに五体がちぎれちまって見るかげもありゃせん。」
「他人事《ひとごと》じゃねえぞ! 支柱を惜しがって使わねえからこんなことになっちゃうんだ!」武松は死者を上着で蔽いながら呟いた。「俺《お》れゃ、今日こそは、どうしたって我慢がならねえ! まるでわざと殺されたようなもんだぞ!」
「せめて、あとの金だけでも、一文でもよけに取ってやりたいなア!」
 坑外では、緊張した女房が、不安と恐怖に脅かされながら、群がっていた。死傷者の女房は涙で眼をはらしていた。三ツの担架は冷たい空気が吹き出て来る箇所を通りぬけて眼がクラ/\ッとする坑外へ
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