んだなア。」声変りがしかけた市三だった。
「そうさ。」
「この五日の休みは、検査でお流れか。チェッ。」
又、ほかの声がした。
食後の三十分間を、皆は、蓆《むしろ》を拡げ、坑木に腰かけなどしてそれ/″\休んでいた。カンテラは闇の晩の漁火《いさりび》のようなものだった。その周囲だけを、いくらか明るくはする。しかし、洞窟全体は、ちっとも明るくならなかった。依然として恐ろしい暗は、そこに頑張っていた。
井村は、もう殆んど小便をすましてしまおうとしていた。と、その時、突然、轟然たる大音響に彼は、ひっくりかえりそうになった。サッとはげしい風がまき起った。帽子は頭からとび落ちた。カンテラは一瞬に消えてまッ暗になった。足もとには、誰れかゞ投げ出されるように吹きとばされて、へたばっていた。それは一度も経験したことのない恐ろしく凄いものだった。ハッパの何百倍ある大音響かしれない。彼は、大地震で、山が崩れてしまったような恐怖に打たれた。
湿った暗闇の中を、砂煙が濛々と渦巻いているのが感じられる。
あとから、小さい破片が、又、バラ/\、バラ/\ッと闇の中に落ちてきた。何が、どうなってしまったか、皆目
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