ゃ、この塊で、どれ位な値打だろうか。」
「六千両くらいなもんだろう。」
 彼等は、自分で掘り出す銅の相場を知らなかった。
「そんなこってきくもんか、五六万両はゆうにあるだろう。」
「いや/\もっとある、十五六万両はあるだろう。」
 彼等は、この鉱山から、一カ年にどれだけの銅が出て、経費はどれだけか、儲けはどうか、銅はどこへ売られているか、そんなこた全然知らなかった。それからは、全然目かくしされていた。彼等はたゞ、坑内へ這入っておとなしく、鉱石を掘り出せばいゝ、――それだけだ。採掘量が多くなるに従って、運搬夫も、女達も増員された。市三は、大人にまじって土と汗にまみれて、うしろの鉱車《トロ》に追われながら、枕木を踏んばっていた。
 坑夫は洞窟の周囲に、だに[#「だに」に傍点]のように群がりついて作業をつゞけた。妊娠三カ月になる肩で息をしている女房や、ハッパをかけるとき、ほかの者よりも二分間もさきに逃げ出さないと逃げきれない脚の悪い老人が、皆と一緒に働いていた。そこにいる者は、脚の趾《ゆび》か、手の指か、或はどっかの筋肉か、骨か、切り取られていない者は殆どなかった。家にはよろけ[#「よろけ」
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